ロッシーニ:胸の想いは満ち溢れ、歌劇「湖上の美人」第二幕より
ー今週のテーマは、春の兆しno.2ー弥生・蟄虫啓戸(蟄虫が戸を啓く)
 「湖上の美人」はロッシーニのオペラの中でも、特にロマンティックな作風を持つ作品。原作にウォルター・スコットの騎士道物語が使われ、規模が大きく重厚な音楽を展開している。またナポリ時代のオペラでは初めて、コントラルトを男装させて登場させている。
 ロッシーニは死後たちまち忘れられた作曲家となってしまい、『セビリアの理髪師』『チェネレントラ(シンデレラ)』『ウィリアム・テル』(の序曲)の作曲家としてその名をとどめるだけの期間が長く続いた。しかし、ロッシーニ財団が1960年代終わりから出版を開始したクリティカル・エディションによるロッシーニ全集の出版などをきっかけに、1970年代になるとロッシーニのオペラが再評価されるようになった。リコルディ社から校訂版楽譜が次々と出版され、それと並行してクラウディオ・アバドがベルリンで『ランスへの旅』を約150年ぶりに再上演し、以後ヨーロッパでロッシーニ・オペラが精力的に紹介されるようになった。この再評価の動きを「ロッシーニ・ルネッサンス」という。
「湖上の美人」の復活上演は、1983年ペーザロ・ロッシーニ音楽祭で、マウリツィオ・ポリーニ指揮ヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で行われた。
第二幕最後のアリア「胸の想いは満ち溢れ」は、主人公のエレナが王様から恩赦を受けたマルコムとの結婚が許されたことに感激して歌われる。明るく弾むような歌声が、エレナの気持ちを表している。
ELENA
一瞬のうちにこんなにも愛情が
心のまわりにわき起こり、
無限に私を満足させてくれます
私はあなたに申し上げることはありません。
ああ!静寂が饒舌であるかのように・・
すべてが音を欠いてしまったかのようです
ああ陛下!すばらしい平和を
あなたはわたしに与えることができたのです。
ELENA
父と恋人のあいだで
おおなんという幸せな瞬間!
ああ!こんな幸福を
望むことができるなんて!
 歌は、ジョイス・ディドナート。オロスコ・エストラーダ指揮ウィーン・トーンスキュラー管弦楽団。