シューベルト:楽興の時第3番ヘ短調
ー今週のテーマはシューベルトとその周辺。
『楽興の時』(Moments Musicaux )D780は、シューベルトが作曲した6曲構成のピアノ曲集。1823年から1828年にかけて作曲され、28年に作品94として出版された。
特にここで聴く第3番ヘ短調が名高い。“楽興の時”というのは、19世紀に主としてピアノ曲のジャンルで広まったキャラクター・ピース(性格小品)の一種。
シューベルトのピアノ曲の中で「即興曲Impromptu」と並んで、ロマン派の小品の先駆けとなった音楽史上重要な曲集。各曲の規模は「即興曲」より小さいが、より即興的性格が強く、内容的にも洗練されている。
第3番(アレグロ・モデラート、4分の2拍子)は、シューベルトの存命中から愛好され「エール・リュス」(ロシア風歌曲)として有名だった。三部形式で左手の伴奏を背景に右手が重厚な和音を歌う。
ピアノはダビッド・フレイ。1981年生まれのピアニスト。パリ・コンセルヴァトワールでジャック・ルヴィエに師事し、首席で卒業。第5回浜松国際ピアノコンクールをはじめ、数多くのコンクールで上位に入賞。またエコー・クラシック賞も受賞。「楽興の時」はややもすると通俗的な情緒的表現に陥りがちなのだが、この演奏は、弱音の扱いが極めて優れていて、落ち着いて微妙にテンポを動かし、品性と存在感のあるパフォーマンスになっている。素晴らしい!