さわかみオペラアカデミーが目指すもの
2024年に始動した若手オペラ歌手のための育成プログラム「さわかみオペラアカデミー」の取り組みは、単なる技術指導にとどまらず、日本のオペラ文化の未来を支える人材を育てたいという明確な思いから生まれています。
第1期を通じて、私たちは改めてこのプログラムが果たすべき役割について深く考える機会を得ました。
参加した受講生ひとりひとりが抱える課題や悩み、その背景にある日本の育成環境の現状に触れるなかで、私たちが感じていた課題意識や構想はより輪郭をもって浮かび上がり、私たちにとっても“学び”の一年だったのです。
その経験と気づきを踏まえ、私たちはこれまで以上に確かな目的意識をもち、このプログラムを発展させていきます。
日本の音楽大学や大学院を卒業した歌手たちは、形式上「プロ」として舞台に立つことができます。しかし実際に観客の心を動かし、望まれて歌う歌手になるまでには、多くの壁があります。イタリアなどでは、卒業後の研鑽を支える仕組みとして、歌劇場付属のアカデミー、マスタークラスも充実しています。また、厳しいオーディションやコンクールでのふるい落とし、小劇場やフェスティバルの出演機会など段階的に歌手を育てていく環境が整っています。
これに対し、日本ではそうした「真のプロへの階段」が圧倒的に不足しています。
私たちが目指すのはまさに、そのギャップを埋めることです。
単なる発声指導にとどまらず、音楽性、舞台人としての責任、そして「聴く人の心を動かす力」までを含めた総合的な育成を重視しています。国内外で豊富な経験を持つ講師陣とともに、真に力のある歌手を育てる場をつくっています。
これまで私たちは、世界遺産を舞台にした野外オペラや、地方都市での公演などを通じて、多くの“初めてオペラを観る”という観客の方々と出会ってきました。その感動が人生に新たな豊かさをもたらし、地域に文化と活気を届けることを、私たちは実感しています。そして、そうした舞台を創り続けるためには、その場に立つ出演者ひとりひとりの実力が不可欠です。
さわかみオペラアカデミーは、その実力を身につけるための学びと研鑽の場であり、舞台の未来を築く基盤でもあります。ここから羽ばたく歌手たちが、日本のオペラ界を支え、さらには世界へと歩みを進めていくことを、私たちは心から願っています。
まだ始まったばかりの取り組みです。しかしその歩みは、確実に意義あるものとして根づき始めています。
第2期始動にあたり、これまでの経験と知見を生かしながら、さらに実りある活動を積み重ねて参ります。