日本語オペラ制作 対談記事
2022.08.31
―――日本語オペラ制作実現の重要性
吉田:
イタリアオペラの真骨頂は人間の本質をえぐり、本性を暴き出すところにあります。聴衆はそのドラマに共感し、舞台上の役者(歌手)を自分の代弁者のように感じるのです。世界水準の「日本語オペラ」創作を成し遂げたい理由は、日本人聴衆がリアルタイムで深くドラマに入り込み、強く共感できるからです。作品への強い共感によって、未だ異文化と見做されている“オペラ”へのハードルが下がり、自分達の文化として裾野を広げていく事でしょう。そして、日本の歴史や伝統、文化 etc… を題材とし、人類共通の普遍的なテーマを背景に、日本語で作曲されたオペラが世界を席巻し、大ヒット、ロングラン上演され、やがては世界共通の財産となる、、想像しただけでワクワクします! そしてその暁には、日本人音楽家がオペラという人類共通のプラットフォーム上で、世界を股にかけて縦横無尽に大活躍する時代がやってくるのではないでしょうか?
ドヴォルジャークの『ルサルカ』というオペラはチェコ語で書かれていますが、このたった一曲の作品が、世界のオペラ上演言語に占めるチェコ語の割合(0.6%)を堂々の世界第5位に押し上げています。このオペラの中で歌われるアリア「月に寄せる歌」があまりにも魅惑的だからです。世界水準の純国産日本語オペラがそれを超えるシェアを獲得する事は決して夢ではありません。たった一曲、世界的スーパーヒット曲を世に送り出せば良いのです。このコンテンツを武器に、世界で活躍する歌手とオーケストラ奏者を結集させ、最高のプロダクションにする。少なくともアジアオペラ界のリーダーとして、中国、韓国、台湾、オーストラリア、ニュージーランド等、環太平洋圏において圧倒的シェアを獲得する力を持ったコンテンツが完成すれば、次の段階としてほぼ自動的に世界最高峰の歌劇場、ミラノ、ウィーン、パリ、ロンドン、ニューヨーク、、などから招聘される事は間違いありません。
―――財団の使命“音楽活動を通して心豊かな社会をつくること”の実現
吉田:ヨーロッパで一流の音楽家と話していて感じるのは、自分たちのプロフェッション -音楽家- に対して宗教的なまでの使命感を持っている事です。音楽は、人生を豊かにするもの、高い精神性を培うものだと。それはゆるぎないのです。
澤上:伝道師だな。
吉田:日本人の音楽家も、自分の能力が社会的使命を果たすために神様から授かった才能であることに、もっと自覚と誇りをもっていいと思います。自分の才能、と言うよりはヴェルディやプッチーニといったクリエーターが作品の再創造のために自分に憑依してきている、、みたいな感じでしょうか。日本語のオペラができたら、自家薬籠中の物となるので自然にそうなっていくとは思いますが。
澤上:才能を授かったと思っているがゆえに、凄い音がでちゃうんだよね。日本語オペラについては、責任をもって最高のものを我々は創らなければいけないね。
吉田:“よかったです”、“楽しかったです”、に留まらず、「感動しました」「心が洗われました」「生きる勇気をいただきました」と言ってもらえるような演奏を繰り広げていきたい。
ヨーロッパでは音楽は芸術の中でも最高峰と思われています。ショウペンハウアーは「音楽は“意思”そのものである」といい、マラルメは自分の詩にドビュッシーが音楽をつけたとき、「この音楽は、私の詩から情緒を延べひろげ、それに色彩よりも熱烈に背景を置く」といっています。両者とも「音楽は自分の想像範囲を超える表現力を持っている」と吐露している訳です。私も、音楽には本当に計り知れない力があると思います。
澤上:音楽に力があるからこそ、生の音楽をお届けすることが大切だよね。若い子達のオペラへの興味はだいぶ多くなってきているようだし、学生達にとって“さわかみオペラオーケストラ”に入ることが大きな目標になりそうだね。そういう流れのなかで我々の目標もだいぶみえてきた。3年経つとだいぶ変わるよ。オーディションを受ける子達が成長するきっかけになるような仕組みもつくっていきたいね。