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魅惑のイタリアンスタイルの世界へ―イタリア直送!超贅沢な首席奏者たちの夕べ

昨年スタンディングオベーションのうちに幕を閉じた『イタリア直送!』シリーズコンサート。今回はイタリア主要歌劇場の首席奏者7名を迎え、ボッケリーニ、ケルビーニ、レスピーギらの名作の他、イタリアにルーツをもつ偉大な音楽家ピアソラを称え、タンゴでは珍しいフルートを主役にしたオリジナル版の情熱的かつ洗練されたリリシズム溢れる音色をお届けした。

2023.03.23 海外招聘公演 東京

2023年3月、東京オペラシティにて「イタリア直送!超贅沢な主席たちの夕べ」が開催された。出演者は、「フルートのミダス王」と称されるジョルジョ・ザニョーニ氏を筆頭に、ボローニャ歌劇場管弦楽団やアレーナ・ディ・ヴェローナの首席奏者たち総勢7名。フルート、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、ホルンの名手たちを招聘しての公演だ。 コンサート1曲目は、弦楽五重奏によるL.ボッケリーニ作曲『マドリードの通りの夜の音楽ハ長調』。スペインの街を音楽で感じることができる、楽し気な曲だ。演奏が始まると、エマヌエーレ・ベンフェナーティー氏が、ヴァイオリンを激しく「掻き鳴らし」ながら袖から登場した。これは兵隊の持つ太鼓のドラムロールを表現しているという。

ベンフェナーティー氏の力強く、激しく情熱的な演奏は、登場の演出と相まって異様な心の高まりを感じさせる。場面転換が多く、足踏みで夜警隊の行進を表現するなど、1曲目から聴きどころが非常に多い。 続いてL.ケルビーニ作曲の『ホルンと弦楽のためのソナタNo.1No.2』。ホルン奏者のパオロ・アルマート氏が登場し、弦楽五重奏とホルンという一風変わった編成となる。アルマート氏の演奏はやわらかく、滑らかで、温かみを感じさせる。「ホルンはこんなに柔らかくて優しい音が出せるのか」と驚かされる。 1部の最後はO.レスピーギ作曲の『リュートの為の古風な舞曲とアリア第3組曲』。演奏が始まると、おとぎ話の中の宮殿に迷い込んだような神秘的な音の情景が広がる。

今回の紅一点、サラ・アイロルディ氏のチェロが、竪琴のように華やいだエッセンスを曲に加える。曲間では、コントラバス奏者のファビオ・クァランタ氏のパフォーマンスも目を惹いた。奏者は袖にはけるタイミングで、クァランタ氏は「みんな早くはけて」とジェスチャー。そしてステージ中央に出てきて「みなさん、今日は僕のためにありがとう」という顔をする。そのお茶目な姿に、観客は笑いながら拍手を送った。最初は身構えていた観客も、このパフォーマンスで、「もっと肩の力を抜いて楽しんでいいんだ」と思わされる。一番緊張するはずの舞台上の奏者が、観客の緊張を察して和らげるとは。絶対的な自信からくる余裕を感じさせる。

こうして一部を終え、2部がスタート。後半は弦楽五重奏とフルートという珍しい編成で、世界的な人気を誇るA.ピアソラ氏の曲目を熱演する。ジョルジョ・ザニョーニ氏が登場すると、ただならぬオーラが会場内に広がった。1曲目は、ピアソラが亡き父に捧げた曲『アディオス・ノニーノ』。演奏は最初穏やかに始まったが、突如空気が一変する。一種狂気にも似た熱のこもった演奏に、目が釘付けになる。差し色をすることで絵画が引き締まるように、ザニョーニ氏のフルートによって、音色に圧倒的な深みが生まれ、驚異的なエネルギーが発せられる。奏者が1人増えたというより、まるでザニョーニ氏が指揮者であり、奏者であるようだ。息ができずに聞き入っていると、いつの間にか次の演奏が始まっている。曲間には観客席から「はぁ~…」という吐息が響く。演奏中、皆息つく暇もないようだ。

第2部はそこから『天使の死』『ブレノスアイレスの冬』『オブリヴィオン』『リベルタンゴ』と全5曲続いたが、音色に圧倒されてしまい第1部ほど詳細を覚えていない。「あまりの演奏に没頭させられた」という印象だ。 全ての演奏が終わると、観客からは拍手喝采が送られた。「ブラーボ」と書かれたタオルを掲げて歓喜を表す観客もいる。毎回期待を裏切らない、首席たちのコンサート。この音色の凄みは、一度聴いた人にしかわからないだろう。今回幸運にも演奏を聴けた人たちは、素晴らしい「イタリア直送みやげ」を持ち帰ったことと思う。

公演名

イタリア直送!超贅沢な首席奏者たちの夕べ

開催日程

2023年3月3日(金)

開催会場

東京オペラシティ コンサートホール

主な出演

ジョルジョ・ザニョーニ(フルート/モデナ歌劇場フィルハーモニー総裁)エマヌエーレ・ベンフェナーティ(ヴァイオリン/ボローニャ歌劇場コンサートマスター)ダヴィデ・ドンディ(ヴァイオリン/ボローニャ歌劇場 第2ヴァイオリン首席奏者)ダニエル・フォルメンテッリ(ヴィオラ/ボローニャ歌劇場 ヴィオラ首席奏者)サラ・アイロルディ(チェロ/アレーナ・ディ・ヴェローナ 首席チェロ奏者)ファビオ・クアランタ(コントラバス/ボローニャ歌劇場 コントラバス首席奏者)パオロ・アルマート(ホルン/アレーナ・ディ・ヴェローナ 首席ホルン奏者)

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