観劇レポ|オペラ「トロヴァトーレ〈吟遊詩人〉」ハイライト&コンサート
1月14日(土)宝塚市、ベガ・ホールからスタートした「Japan Opera Festival 2023野外オペラ法隆寺公演開催記念 オペラ「トロヴァトーレ〈吟遊詩人〉」ハイライト&コンサート」。 宝塚を皮切りに奈良、名古屋、京都、東京、全国5カ所で開催し、同年5月に開催するJapan Opera Festival 2023法隆寺公演に先駆けて開催されました。
1月14日(土)宝塚市、ベガ・ホールにて「Japan Opera Festival 2023野外オペラ法隆寺公演開催記念 オペラ「トロヴァトーレ〈吟遊詩人〉」ハイライト&コンサート」の幕が開いた。 宝塚を皮切りに奈良、名古屋、京都、東京、全国5カ所で開催した本公演は、タイトル通りJapan Opera Festival 2023に先駆けて開催された、いわばプレ公演である。 プレ公演とはいえ、出演者の顔ぶれは豪華だ。ヒロインのレオノーラ役には、洗練された演技と圧巻の歌唱が魅力のソプラノ歌手、上田純子。タイトルロール吟遊詩人のマンリーコ役には、当財団の主催公演は2018年以来、久々の出演で現在はイタリアで活躍する技術派テノール歌手、後田翔平(以下:後田)と、ここ最近の活躍が目覚ましく、華やかな声音を持つテノール歌手、前川健生(以下:前川)のWキャストで行われた。主要2人の脇を固めるルーナ伯爵とアズチェーナには、抜群の安定感を誇るバリトン歌手、上田誠司と、もって生まれた美声で今後活躍が期待されるメゾ・ソプラノ歌手、佐々木有紀(以下:佐々木)が起用された。そして、このヴェルディ中期の最高傑作と言われるトロヴァトーレの音楽を表現するピアニストとして、篠宮久徳が伴奏を務めた。また、宝塚と奈良公演にはソプラノ歌手の梨谷桃子が賛助出演した。
ここで忘れてはならないのが、このハイライト公演を演出する当財団所属の演出家、小澤可乃の存在だ。彼女の演出には1つの特徴がある。それは、楽曲と楽曲の間に日本語のナレーションを取り入れることだ。主要楽曲や場面だけでは表現しえない部分をナレーションで補い、時にはピアノと演技がそこに混ざり合い、物語の人物 が置かれている状況を軽快に説明していくのである。それにより、物語への理解度がより深まることで、3時間を要するオペラが1時間半に短縮された公演であっても、満足度が高いという所以であろう。
この公演は第一部で「名曲コンサート」「トロヴァトーレ(第一幕)ハイライト」、第二部で「トロヴァトーレ(第二幕、第三幕、第四幕)」という構成で行われた。名曲コンサートでは、日本やイタリアの歌曲やオペラのアリアなど、幅広いジャンルの楽曲を歌唱。それぞれの歌手の持ち味が、存分に発揮されるレパートリーであり、中でも佐々木有紀が歌唱した「Stand Alone」は圧巻であった。心に沁み、自然と涙が出てくる声音に盛大な拍手が沸き起こった。宝塚、奈良公演に賛助出演した梨谷は、オペラ「マノンレスコー」より「柔らかなレースに包まれても」をしっとりと華麗に歌い上げ、名曲コンサートが終了。
オペラと言えば、舞台上には大きなセットが組まれ、たくさんの小道具と煌びやかな衣裳を身に着けた出演者たちが舞台上に立っていることを想像するだろう。ただ今回の舞台にはそれらのモノは一切見当たらない。シンプルだからこそ見えてくるのモノ、それはハッピーエンドとは程遠い、悲劇が巻き起こるこのオペラの中で、いったい誰が闇から光を見つけ出せるのか、それを見つけてもらいたいと演出家は聴衆に毎公演問いかけていた。第1幕冒頭は、ナレーションとピアノから始まる。そこで、聴衆の気持ちは一気に物語に引きずり込まれ、レオノーラがマンリーコへの思いを歌う場面が始まったときにはすでに、物語の心中にいる。
そして、どこか今後の展開を悟るようなレオノーラの思いを、上田純子が華麗に歌い上げた。1幕最大の見せ場であるルーナ伯爵とマンリーコの決闘シーンでは、切迫した空気が客席にも伝わってくる圧巻の演技に聴衆も息を呑んだ。
第2幕からマンリーコの母アズチェーナが登場すると、会場は一気に重々しく不気味な雰囲気へと変化する。アズチェーナ役の佐々木は、第一部のコンサート時と同一人物なのかと目を疑うほど、そこにはまぎれもなく老婆がいた。改めて感じる、演者のすごさである。第3幕は、ルーナ伯爵のアリアから始まる。上田誠司の落ち着きのある澄んだバリトンボイスに、まるで夜の景色が浮かび上がるようだ。その後の結婚式のシーン後のマンリーコのアリアでは、Wキャストならではの違いがあった。包容力のある伸びやかな声音と心の中で闘志を燃やす後田と、直球の愛を歌い、自身を鼓舞する力強い歌声の前川、どちらもレオノーラを包み込む思いのこもった素晴らしいマンリーコであった。
怒り、悲しみ、喜び、絶望、愛おしさ、母性、ありとあらゆる感情が交差する第4幕は、息をする間も忘れるほどに、アズチェーナの高笑いと共に結末を迎えた。最後のカーテンコール、どの会場も割れんばかりの拍手に包まれ、聴衆の満足感が直に伝わってきた。5月開催の野外オペラ公演の序章として、良い一歩となった。
【名曲コンサートの主な演奏楽曲】ガスタルドン:「禁じられた音楽」(後田翔平[宝塚、奈良]、前川健生[名古屋、京都、東京])/エルネスト・デ・クルティス:「忘れな草」(上田誠司)/日本歌曲‟故郷の四季“より冬のメドレー(全員)/プッチーニ:オペラ「マノンレスコー」より「柔らかなレースに包まれても」(梨谷桃子)/久石譲:「Stand Alone」(佐々木有紀)/ラフマニノフ:「春の洪水」(上田純子)…他
公演名
オペラ「トロヴァトーレ〈吟遊詩人〉」ハイライト
開催日程
2023年1月14日、15日、27日、28日、2月7日
開催会場
宝塚、奈良、名古屋、京都、東京
公演内容
ジュセッペ・ヴェルディ中期の傑作「トロヴァトーレ」ハイライト公演|原語上演/日本語字幕付|演出家、小澤可乃が手掛けるハイライト公演は、原曲であるイタリア語の歌に日本語の語りを交えた新しい公演です。日本語の語りを入れたことで物語の展開がわかりやすく、よりオペラを理解することができます。
主な出演
上田純子