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観劇レポ|さわかみオペラin徳島「椿姫」

2023年11月29日(水)、30日(木)に、7回目を迎える「さわかみオペラin徳島」が開催された。最初の2年間はソリストたちによるガラ・コンサートを上演し、市民合唱団“コーロ・インダコ”が加わっての本格的なオペラ公演が始まってからは、5年目を数える。「トスカ」「道化師」「カヴァレリア・ルスティカーナ」「カルメン」と続き、今回の演目は「椿姫」。パリの社交界に生きる高級娼婦ヴィオレッタの愛と哀しい運命が描かれた世界屈指の人気を誇る珠玉の名作だ。

2024.01.16 全国公演 徳島

ヴィオレッタが真実の愛に巡り合い、目覚めていく姿と哀しい運命がオペラ全編を通じて描かれる。その一方で彼女の運命と対局をなすのは華やかであるが空虚な愛に満ちた社交界。そのコントラストがこのオペラの見どころの一つだと思っている。主人公の孤独や悲哀に対し、合唱団やダンサーが演じる社交界が鮮やかであればあるほど、享楽的であればあるほど、ヴィオレッタの苦しみを観客に訴えかける力が増すからだ。“コーロ・インダコ”には大きな存在感が求められる難しい演目だったといえよう。一幕の冒頭、次から次へとパーティーの会場に溢れ出てくるような存在感。二幕二場の賭けの場面ではアルフレードを責め立てる大迫力の歌と演技。

そして、三幕では会場の通路を使ったサプライズ演出で登場。謝肉祭に沸き立つパリの街並みからの合唱団の歌声と、自宅で病に伏せるヴィオレッタの絶望とが悲劇的なコントラストとなって観客の心を打つこととなった。それらの難しい役回りをしっかりと果たし、舞台での圧倒的な存在感を示した“コーロ・インダコ”の歌と演技、そしてダンスのクオリティの高さに大きな満足を得ることができた。舞台装置は大階段を幕毎に左右や真ん中などへ移動させ、限られた舞台スペースを効果的に使う仕掛けが光っていた。

合唱団やダンサーたちは舞台の上手下手、左右の階段からの上下の動き、そして中央の扉からと次から次へと現れることで、ダイナミックな演出となり、パリの社交界の賑やかさが観客席を圧倒していたのではないだろうか。ヴィオレッタ役は初日がイラーリア・ヴァナコーレ、2日目が黒田詩織というダブルキャスト。イラーリアの出演はクラウド・ファンディングの公募によって実現した。イタリアの歌劇場で幅広いオペラの出演実績を持つ彼女の歌声は深く、観客に語り掛けるように響いてきた。華やかな舞台上で彼女だけが特別であるかのように観客席には感じられた。

その圧巻のクオリティと存在感を達成したクラウド・ファンディングは、大成功だったといえよう。2日目に登場した黒田詩織はさわかみオペラ芸術振興財団の奨学金を受けて2019年に渡伊。2023年夏に帰国するまで数々のアカデミーを修了し、フェスティヴァルや劇場での出演経験を重ねてきた。もともと美しい歌声と素晴らしい声量を持っていたが、イタリアでさらに美しい旋律と表現力を身に着けてきたように思う。一幕から三幕までヴィオレッタの移り変わる心情と運命の悲哀さを奏でた黒田さんの歌声に引き込まれていった。一幕の前奏曲では紗幕を効果的に使い、ヴィオレッタの孤独と将来を暗示。

そして、三幕では舞台背景のプロジェクタの映像と照明によって死に直面するヴィオレッタの心情が匠に描かれていた。ラストシーンでは涙をすする音が観客席のあちらこちらで響いていた。歌手の力量と演出家の構成とが十分に発揮され、観客席の感動がクライマックスとなり終演を迎えたのだろう。ヴィオレッタに恋をする青年貴族アルフレード役は初日が後田翔平、2日目がマルコ・プッジョーニのダブルキャストであった。

後田さんは2014年に渡伊し、在伊中にさかみオペラ財団の奨学金オーディションにも合格。これまでイタリアやヨーロッパ各地での出演を重ねてきた。持ち味である軽やかで伸びやかな歌声でアルフレードの若々しさ、未成熟で運命に戸惑う青年役を見事に演じきったと思う。2日目に登場したマルコは、イラーリアと同じくクラウド・ファンディングの協力により招へいが叶った、イタリアでも注目されつつある若手のテノール歌手である。伸びやかで深みのある歌声は観客席からはため息が聞こえてくるようで、うねる様に響いてくる彼の音楽はオペラ全編に極上の魅力を与えてくれた。

ジェルモン役は藤山仁志であったが、初日終了後に体調を崩し、2日目は急きょ品田広希、武井基治、奥村啓吾が変則的な形で代役を務めた。2日間のオペラ公演で唯一の心残りである。万全の体調による実力の発揮は、次回以降の機会に期待したい。

そして脇を固めたフローラ役の杣友恵子、アンニーナ役の春山暁子、ドゥフォール男爵役の西励央、ガストーネ子爵役の本多信明、ドビニー伯爵役の品田広希、グランヴィル医師役の松中哲平、ピアノの篠宮久徳、ヴァイオリンの尼崎有実子は、いずれもこの徳島の舞台に「ぜひ出演したい」とオーディションや手を挙げるなどして駆けつけてくれた出演者達であり、「さわかみオペラin徳島」を盛り上げる一員になりたいという熱い想いがリハーサルから本番まで伝わってきていた。演出を務めたのは、さわかみオペラ芸術振興財団所属の奥村啓吾である。奥村は演出に加え、合唱指導・指揮も担っている。

本公演に向け、約1年前から“コーロ・インダコ”の練習は始まる。発声、歌唱、演技など指導は多岐にわたる。プロの合唱団であれば本場直前に集まり「さあ、リハーサルをはじめましょう」でいいかもしれないが、普段は別の仕事を持つ人々が集まる“コーロ・インダコ”ではそうはいかない。1年という長い時間をかけて合唱の歌と演技を少しずつ一緒に『創り上げて』いき、本番を迎えることになるのだ。5年間の積み重ね、そして一つの演目に対して1年間という長い時間をかけて創り上げた“コーロ・インダコ”の魅力が「さわかみオペラin徳島」の中心にある。そこに、一流の歌手や演奏家の力が加わって化学反応を起こしたときに、最高の舞台が出来上がる。今年の「椿姫」は大いに満足したすばらしい公演だった。(山田 純|さわかみオペラ芸術振興財団 統括責任者)

公演名

さわかみオペラin徳島「椿姫」

開催日程

2023年11月29日、30日

開催会場

あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)

公演内容

全3幕/原語上演/日本語字幕付き

主な出演

ヴィオレッタ・ヴァレリー(Wキャスト):イラーリア・ヴァナコーレ(Ilaria Vanacore)※29日、黒田詩織※30日/アルフレード・ジェルモン(Wキャスト):後田翔平※29日、マルコ・プッジョー二(Marco Puggioni)※30日/ジョルジュ・ジェルモン:藤山仁志/フローラ・ベルボア:杣友惠子/アンニーナ:春山暁子/ドゥフォール男爵:西励央/ガストーネ子爵:本多信明/ドビニー侯爵:品田広希/グランヴィル医師:松中哲平/合唱:コーロ・インダコ(地域合唱団)|ピアノ:篠宮久徳/ヴァイオリン:尼崎有実子|演出・合唱指揮:奥村啓吾

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