観劇レポ|さわかみオペラin徳島「愛の妙薬」
2024年12月14日(土)、15日(日)に、さわかみオペラin徳島「愛の妙薬」を開催しました。昨年に続き、クラウドファンディングによって主要キャストを海外より招聘、また本公演より小編成オーケストラでの演奏もクラウドファンディングよって実現しました。年々規模が大きくなる徳島公演に目が離せません。2024年12月14日の観劇レポートをご覧ください。
大いなる飛躍の2024年、そして
昨年の「あわぎんホール」とは違った空気感に、一瞬、戸惑う。緊張感で張りつめた2023年に対して、2024年は「ゆったりとした雰囲気」で満たされているのは何故だろうか。そう思いつつ席についた。幕が上がり、市民合唱団「コーロ・インダコ」の第一声を聴いたとき、その理由がわかった。従来とは格段に厚みのある声音に、不安ではなく余裕が感じられたからである。
1年間にわたり十分な練習を積んできた成果とも言えよう。数えて6回目になる今回の公演では、多くの人々が合唱団の大きな飛躍を感じたのではないだろうか。それだけではない。舞台上での一人一人の動きのキレが心地よいのだ。自信漲る動きの端々は、残影を伴いながら、舞台の隅から隅まで彩りと躍動で満たしていく。その源(みなもと)は、楽しいだけではなく、演じることの嬉しさであるに違いない。嬉しさは、それまでの努力と苦しさにより生まれるはず。その人知れぬ涙を拭ってきた一歩一歩が、結晶として感じられたのである。楽しさは一瞬だが、嬉しさは積み重なって、次につながるワクワク感を生み出すだけに、さらなる高みへの跳躍が2025年公演でも期待できそうだ。
ところで、ガエターノ・ドニゼッティ作の「愛の妙薬」は、オペラとは言え悲劇ではなく、ハッピーな気分で終わる小気味よい二幕での作品。限られたソリストで編成され、わかりやすい物語になっているだけに、初めてオペラ会場に足を踏み入れた観客も無理なく溶け込めること請け合いである。それだけに、華々しく著名な作品だけではなく、2024年は、着実にオペラのファンを積み上げていく「さわかみオペラ」らしい選曲となったはず。それに加え、観客を楽しませる演出の数々は、特筆に値する。愛の妙薬であるワインは、日本酒の酒樽に転じ、場を和ませる。
ストーリーの流れを滞らせない絶妙なバランスを保ちながらの演出が、馴染みのある品々となって、舞台上と観客の距離を近づけるのである。さらに、徳島ならでは阿波踊りが散りばめられていたのには、驚きを通り越して、喝采が沸き起こるほどに好評であった。観客の笑いを見事に掴む演出・武井基治の本領発揮と言えよう。村一番の美女・アディーナ役のサブリーナ・サンツァ(ソプラノ)は、ナポリ生まれのノリの良さで、踊りにあわせる姿は、さらに人々を魅了していた。
どのソリストも適した配役であり、純朴な青年ネモリーノ役の本多信明(テノール)によるアリア「人知れぬ涙」も伸びやかな歌声で観客を魅了したに違いない。多くの著名歌手が歌い続けてきた名曲だけに、一緒に口ずさむ微かな観客の声も耳に入ってくる。また、目を引いたのはインチキ薬売りドゥルカマーラ博士役の宮本史利(バリトン)かもしれない。舞台上での巻き込み力が、特に素晴らしかった。長年にわたり地元・横須賀で音楽家と市民をつないできた実績が、舞台と観客の垣根を越えていく包容力となっているからなのだろう。徳島での公演に味をしめて、横須賀でも地域オペラを盛り上げてほしいものだ。
舞台と観客の垣根を越えるだけでなく、地域の壁や地理的な距離を超えて、今や市民参加型の地域オペラの輪は広がってきている。当初は乗り越えるべきハードルは数多くあるものの、一つ一つ克服することで、大いなる結実の成果をもたらすという徳島の事例が、各地のモデルケースとなって輝く。「艱難汝を玉にす」との諺の通りと言ってもよいだろう。これからも輝きを増していく徳島オペラの成長は、地域創生の大きな渦潮となって、日本中の志ある仲間を巻き込んでいくに違いない。(寄稿:平山 賢一|さわかみオペラ芸術振興財団理事)
公演名
さわかみオペラin徳島「愛の妙薬」
開催日程
2024年12月14日、15日
開催会場
あわぎんホール(徳島県郷土文化会館)
公演内容
全2幕/原語上演/日本語字幕付き
主な出演
【14日】アディーナ:サブリーナ・サンツァ(Sabrina Sanza)/ネモリーノ:本多信明/ベルコーレ:澤地豪/ドゥルカマーラ:宮本史利/ジャンネッタ:松平幸【15日】アディーナ:黒田詩織/ネモリーノ:後田翔平/ベルコーレ:ダニエレ・ムラトーリ・カプート(Daniele Muratori Caputo)/ドゥルカマーラ:松中哲平/ジャンネッタ:市岡裕紀子【両日】合唱:コーロ・インダコ/ダンス:ダンツァ・インダコ/バンダ:オーケストラ・インダコ/指揮:山崎隆之(さわかみオペラ芸術振興財団)//演出:武井基治(さわかみオペラ芸術振興財団)/演奏:さわかみオペラオーケストラ|1stヴァイオリン:尼崎有実子(コンサートミストレス)、2ndヴァイオリン:小野唯、ヴィオラ:川村凛子、チェロ:小森奏、コントラバス:奥山尋冬、フルート:牧ほのか、クラリネット:青木萌、トランペット:火ノ川慎平、ピアノ:篠宮久徳