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観劇レポ|Cantaviva~選ばれし歌声が織りなす一夜限りの響演~

2025年9月10日、渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて、《Cantaviva-カンタヴィーヴァ-》の幕が上がった。”Cantare(歌う)”と”Vivere(生きる)”という二つの命題を掲げたこの公演は、まさに“生きた芸術”が舞台に息づいていた。 出演は、イタリアで研鑽を積んだ実力派歌手、ソプラノ梨谷桃子、メゾ・ソプラノ山川真奈、テノール武井基治、バス松中哲平。そして、イタリアの名門歌劇場で活躍するウェイ・ジャンを劇場ピアニストとして迎えた。

2025.07.29 全国公演 東京

第1部は、武井基治による〈朝の歌(マッティナータ)〉で華やかに幕を開けた。 夜明けとともに愛する人への想いを呼びかける瑞々しい歌声がホール全体に広がり、観客の期待を一気に引き寄せる。続く山川真奈が歌う〈オペラ「カルメン」恋は野の鳥〉では、一転して奔放で挑発的なエネルギーがホールを支配。情熱の気高さを宿す彼女の歌唱は、カルメンの“自由の魂”を艶やかに魅せた。梨谷桃子による〈オペラ「蝶々夫人」ある晴れた日に〉では、蝶々夫人の一途な想いが静謐な祈りのように広がり、世界基準の輝きを放つ彼女の声が、聴衆の心の奥深くまで届いた。

ウェイ・ジャンによる〈オペラ「マノン・レスコー」間奏曲〉。ピアノ一台でオーケストラを思わせる豊かな響きを生み出し、作品の陰影を描き出した。ときに静謐に、ときに情熱を帯びながら、彼女の指先から紡がれる音楽に引き込まれた。続く〈オペラ「ラ・ボエーム」抜粋〉では、梨谷と武井のデュオが青春のきらめきを鮮やかに紡ぐ。〈なんて冷たい小さな手〉から〈私の名前はミミ〉、そして〈なんと優しい娘〉へと展開し、まるでオペラそのものを観劇しているかのような臨場感に包まれた。本年12月、さわかみオペラは徳島公演を皮切りに、オペラ《ラ・ボエーム》を各地で上演予定である。この日の二人の演奏は、その公演への期待を高めるにふさわしく、観る者をオペラの世界へと深く引き込むひとときとなった。

第2部は、《カヴァレリア・ルスティカーナ》間奏曲から幕を開けた。〈ガンジス川から陽は昇り〉〈哀れな男〉〈ストルネッロ〉など、深みと高揚を兼ね備えた構成で、オペラの本質である“人間のドラマ”を凝縮した内容であった。〈オペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲〉では、再びウェイ・ジャンの技巧が光る。静寂と光の狭間を描くようなピアノの調べに、聴衆は息を呑む。この部で初登場した松中哲平は、まさにオペラの支柱という言葉がふさわしい。彼による〈哀れな男〉は、孤独と誇りを抱く一人の男の姿が、本格派バスならではの深みで語られた。

続く《Cantaviva》コーナーでは、さわかみオペラの理念「オペラを通じて社会に貢献する」「オペラで世界と渡り合う」を象徴する特別なステージが展開された。この日、さわかみオペラと志を共に活動する地域合唱団(徳島・喜多方・南魚沼・青森)、そしてさわかみオペラアカデミー東京・大阪校の有志が舞台に立ち、〈オペラ「椿姫」乾杯の歌〉〈オー・ソレ・ミオ〉を出演者とともに歌い、客席も加わって大合唱。舞台と客席の境界が消え、ホール全体に一体感が生まれた。彼らの登場は聴衆に大きな驚きと感動を与えたことだろう。プロとアマチュアが垣根を越えて融合し、文化が地域の中で根を張っていく。これは“持続可能な芸術活動の形”として海外からも注目を集めており、《Cantaviva》という名のもとにその意義が鮮やかに示された。

プログラムの最後は、武井基治による〈彼女に告げて〉で締めくくられた。円熟した歌声は、会場に深い余韻を残した。かつての彼を知る人はこう語る。「若き日のきらめきと可能性に満ちていたその歌声が、今や洗練と確信を帯びた表現へと進化していた。人はいつまでも成長し続けるのだろう」と。彼もまた、歌うこと、生きること、その双方に真摯に向き合う《Cantaviva》の精神を体現していた。

公演はここで終わらない。アンコールでは〈オペラ「蝶々夫人」花の二重唱〉、〈ヴェネツィアの舟歌〉、〈映画「ゴットファザー」愛のテーマ〉、〈ミュージカル「ジキルとハイド」時が来た〉と続き、熱気は最高潮に達した。そして真のフィナーレを飾ったのは〈君と旅立とう(Con te Partirò)〉。力強くも温かな終結で、会場は大きな拍手と興奮に包まれた。

この夜、《Cantaviva》は、さわかみオペラの次なる挑戦への第一歩となったことを強く印象づけた。“Cantare × Vivere”という命題が、確かに観客の心に刻まれた一夜であった。

公演名

Cantaviva-カンタヴィーヴァ- ~選ばれし歌声が織りなす一夜限りの響演~

開催日程

2025年9月10日

開催会場

渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール

公演内容

イタリアの歌劇場で日本人初のプリモテノールを務めた武井基治(テノール)をはじめ、才能あふれる歌手たちが出演。また、名立たるイタリアの歌劇場で活躍している、劇場ピアニストのウェイ・ジャン氏(Wei Jiang)を招聘。一夜限りの夢のコンサートを実現!

主な出演

【歌手】梨谷桃子(ソプラノ)、山川真奈(メゾ・ソプラノ)、武井基治(テノール)、松中哲平(バス)【ピアノ】ウェイ・ジャン(Wei Jiang)

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