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[喜多方]十四人の奏者と、終演後の歌声(後編)

6月27日(土)、喜多方プラザ文化センター大ホールで上演した「喜多方市合併20周年記念事業 喜多方 酒蔵オペラ『ラ・ボエーム』」。 本公演には、イタリアのアンコーナ・テアトロ・デッレ・ムーゼおよびオジモ・アカデミア・ダルテ・リリカで芸術監督を務めるヴィンチェンツォ・デ・ヴィーヴォ氏をお迎えした。

2026.09.29 全国公演 福島

合唱に加わることで、人はオペラを「つくる」喜びを知る。喜多方では、日本の若い世代のなかでも注目すべき実力を備えた歌手たちと、優れた器楽奏者が、市民と舞台をともにしていた。その出会いを音楽として支えるために、この公演には大切な工夫が施されていた。オーケストラの編成である。劇場の広さには限りがあり、大編成のオーケストラを収めることはできない。そこで、この日の『ラ・ボエーム』は、十四人の奏者のために新たに編曲された楽譜で演奏された。一人ひとりが独奏者としての力を発揮する編成だった。

イタリア・オペラの管弦楽は、豊かで複雑に書かれている。その演奏には、多くの奏者が必要になる。しかし、より少ない人数で作品を上演するという課題は、いまに始まったものではない。十九世紀末には、すでに作曲家や出版社が、新作をより広く演奏できるようにするため、編成の縮小を検討していた。プッチーニ自身も、出版社リコルディが自作のいくつかを小さな編成で刊行することを認めている。その仕事を任されたのは、当時まだ若かったアルゼンチン出身の作曲家、エットレ・パニッツァだった。

近年の感染症の流行も、同じ課題をあらためて突きつけた。奏者同士が距離を保たなければならなくなり、よく知られたオペラの数々に、小編成のための版が生まれた。ただし、そのすべてが、原曲の魅力を保てたわけではない。必要なのは、それぞれの声部の関係を見つめ直し、新たな均衡をつくることだ。そして、その楽譜を生かすには、室内楽に求められるような精密さと音楽的な趣味を備えた、卓越した奏者たちが欠かせない。一人ひとりの音が、音楽全体の表情を左右する。小編成には、それだけの力量が求められるのである。

今回の『ラ・ボエーム』の編曲は、さわかみオペラ芸術振興財団の委嘱により、イタリアの二人の作曲家、サヴェリオ・サントーニとマッテオ・サルチネッリが手がけた。ノヴァーラのコッチャ劇場にあるA.M.O.アカデミーの、オペラ作曲課程における仕事である。日本の財団の構想に、イタリアの音楽機関が培ってきた経験が加わる。この協働は、喜多方の公演を支える重要な要素となっていた。

そして、終演後にも、この日の喜びは続いていた。劇場の一室には、出演者と主催者たちが集まり、ともに音楽と舞台をつくり上げた喜びに乾杯した。挨拶が交わされ、感謝が伝えられ、合唱団の人々や子どもたちに温かな思いが寄せられる。そこでは、まだ音楽を続けたいという気持ちが、ごく自然にあふれていた。歌があり、楽器の演奏があり、合唱があった。ひとつの演奏が次の演奏へとつながり、舞台で分かち合った感動を、さらに大きくしていく。

劇場を出ると、夏の夜に、かすかな風が吹いていた。私は、ある種の高揚を覚えていた。日本の小さな街で、オペラがふたたび、人々の暮らしと交流を動かす力になっていたからだ。それは、二十世紀半ばまでのイタリアで見られた光景でもあった。 喜多方で採られたこの方法には、オペラの新しい観客を育てる大きな可能性がある。直接参加する機会が、あらゆる世代を招き入れ、とりわけ若い人々を舞台へと近づけている。『ラ・ボエーム』が上演されるほかの街にも、その可能性は開かれている。ルネサンス期のイタリアの宮廷に生まれたオペラは、やがて世界の人々に親しまれる舞台芸術となった。音楽の言葉と舞台が生み出す世界には、時代や土地の隔たりを越えて、人をひきつける力がある。

喜多方では、その力が街の人々自身の歌声となって響いていた。夏の夜風のなかで私の心を満たしていたのは、オペラが、いまもこうして街の暮らしのなかに生きていけるという喜びだった。【寄稿:ヴィンチェンツォ・デ・ヴィーヴォ(アンコーナ・テアトロ・デッレ・ムーゼおよびオジモ・アカデミア・ダルテ・リリカ芸術監督)】

[ヴィンチェンツォ・デ・ヴィーヴォ|Vincenzo de Vivo]1957年イタリア・サレルノ生まれ。ナポリ・サン・カルロ劇場、ローマ歌劇場など欧州主要歌劇場で芸術監督・芸術顧問を歴任し、若手歌手の育成にも尽力。現在はアンコーナ・テアトロ・デッレ・ムーゼおよびオジモ・アカデミア・ダルテ・リリカ芸術監督。国際コンクール審査員、台本作家としても幅広く活躍している。

公演名

喜多方市合併20周年記念事業 喜多方 酒蔵オペラ「ラ・ボエーム」

開催日程

2026年6月27日

開催会場

喜多方プラザ文化センター大ホール

公演内容

全4幕/原語上演/小編成オーケストラ/日本語字幕付き

主な出演

ミミ:守木詩織、ムゼッタ:鄭美來、ロドルフォ:東原佑弥、マルチェッロ:田中夕也、ショナール:鈴川慶二郎、コッリーネ:松中哲平、パルピニョール:油谷充恩、ベノア/アルチンドロ:宮本史利、合唱:酒蔵オペラ合唱団、指揮者:山崎隆之、さわかみオペラオーケストラ:コンサートミストレス(1stヴァイオリン):佐藤麻里、2ndヴァイオリン:小柳悠、ヴィオラ:牧角かのん、チェロ:小森奏、コントラバス:奥山尋冬、フルート:牧ほのか、オーボエ:大木雅人、ファゴット:君塚広明、クラリネット:青木萌、ホルン:田中大地、トランペット:依田泰幸、トロンボーン:直井紀和、パーカッション:本間達也、ピアノ:清水綾、演出:武井基治、合唱指導:品田広希、後田翔平、黒田詩織

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