名古屋城オペラ「トスカ」特別対談

澤上篤人 × 吉田裕史

特別対談

名古屋城と「トスカ」

澤上:
いままで関西方面で何度か公演を開催してきて、今度は関東地方でも開催したいと思っていたんだけどなかなか広い場所がない。そう思ったときに、「あ!名古屋があるじゃん!」まずはそれがきっかけだよね。やっぱり野外オペラをやろうとすると、とてつもなく広い場所が必要だということ。
あとひとつわかってきたことは、近隣の住民たちの理解って本当に大事だと思う。
吉田:
そうなんですよね。
オペラはオーケストラ演奏と歌の大迫力ですから、それにクレームが来るどころか周りの理解を得て一緒に巻き込んで、出演者共々盛り上がりたいじゃないですか。
何度か視察で現地に訪れてみて、名古屋の方々はお祭り好きで盛り上がりたい気質があると伺いましたが、名古屋出身の澤上さんはどう思われますか?
澤上:
もちろん、盛り上がりたい、派手にやりたい、気持ちはある。でも何をしていいかわからない。
吉田:
なるほど(笑)
澤上:
東京と大阪の「文化の谷間(ぶんかのたにま)」だと名古屋は言われているもの、名古屋の人たちはどうしていいのかわからない。そういうことなら、私たちで何かしてしまおう。私たちが盛り上げるから存分に楽しんでほしい。そういう思いになったね。
吉田:
名古屋は歴史的な街でもありますから、人々の中に盛り上がりたい、文化的な何かを…という思いもあるわけですね。
澤上:
もうひとつ、文化の谷間の鬱屈した思いもね(笑)。
その思いがあるからこそ、爆発したい。
吉田:
文化としても最高のものを持っている名古屋は本当に素晴らしい。そして、名古屋城は今回のオペラ「トスカ」にバッチリ合います。名古屋城の門を入ったところから、天守閣まで向かう道中の雰囲気から気持ちが高まります。そして天守閣が見えたその時に、オペラ「トスカ」の舞台セットが見えてくる。なにか、グッと心に来るものがありますよね。
澤上:
そうだね。オペラが始まる前から、すでに気持ちが高まるのが想像できるよね。
吉田:
その気持ちの高まりの中、オペラが開演。今年のオペラ「トスカ」は、序曲からすごいんです。フォルテ3つ〈fff〉からはじまるんです!
トゥッタ・フォルツァ【最高の力(全力)で演奏する】と楽譜に記されていて、これはもう劇的な幕開けなわけです。
澤上:
最初から全力っ! これはすごい!
吉田:
驚くのはまだ早くて、このオペラは最後も【全力で】という指示でフォルテ3つ〈fff〉で終わるんです。プッチーニの時代は、音の強弱の中で〈fff〉が一番強いとされていました。
もう少し時代が進むと、フォルテ5つ〈fffff〉を使った楽曲も出てくるのですが、この時代ではフォルテ3つ〈fff〉というのが最もエネルギッシュな表現なんです。
澤上:
なるほど。ぜひとも、名古屋の人たちに、エネルギッシュなオペラ「トスカ」を一緒に楽しんでいただきたい。
吉田裕史

オーケストラの魅力

澤上:
我々がとりわけボローニャフィルを大好きな理由は、人間味があふれていること。
吉田:
本当にそうですよね。
音楽に人生をかけていて演奏することが楽しくてしょうがない。それも彼らは半端なレベルではないですからね。
音楽家にはレベルが4段階あって、1段階目は初心者。2段階目は、演奏している人は楽しいけれど観衆はあまり満足していない。3段階目は、演奏者も観衆も楽しいし満足している。4段階目は、お客様に感動を与えることを常に考えている演奏者。その4段階目が彼らのレベルだと思っています。
澤上:
もう、自分のことは考えていないのかな?
吉田:
そうですね。彼らは作曲家の音楽をお客様に届けるための代弁者でそれが使命だと思っているのではないですかね。
澤上:
だから、彼らが演奏するプッチーニやヴェルディは、すごい作曲をしたものだとしみじみ感じるのかな。本当に歌も演奏も素晴らしいの一言に尽きるよね。
吉田:
本当そう思いますね。使う楽譜が同じでもオーケストラが違えば魅力は変わってきますし、音楽世界の魅力の一つとして「スタイル」があります。イタリアのオーケストラのみが持っている「イタリアンスタイル」はリズムの感じ方が独特で、イタリアのオーケストラだからこその「オンリーワン」を持っています。色が艶やかで色っぽいときもありますし、何よりも音楽がうねるんですよ。このうねりが鳥肌を立たせる理由の一つです。
澤上:
彼らはそれを意識して演奏しているのかな?
吉田:
彼らは意識してないです。もう音楽が体の一部となっていて、それが当たり前なんだと思います。
澤上:
そうか。何もかもが体の中に入っちゃってるんだろうね。
吉田:
もちろん。
だからこそ彼らのイタリアオペラは「世界一」なんですよ
澤上篤人

ジャパン・オペラ・フェスティヴァル2018